2009年01月29日
気丈な舞台女優(全体)
今回のセッションは、芸術家の卵、感性豊かな20台後半の男性です。
現在、県内各方面での芸術活動に精を出しています。
彼には、まず、中間世へ降りてもらいました。
そこは、全体が青い、とても大きな部屋でした。
部屋の大きさがどのくらいかは、具体的にはわかりません。
両端は、ぼんやりしていて見えませんでした。
なんとなく、奥には壁があるような、もしかしたら、
壁なんて存在せず、ただ、そこは霧が立ち込めているだけのような、
そんな、不思議な空間でした。
床は、よく磨かれたラピスラズリのような、深い青。
つるつるしているその床は、覗き込む者の顔をよく映し出していました。
触れてみると、ひんやりと、少し冷たく、かたい。
この部屋全体の構造物がこの床の材質でできているようです。
目の前には、とても広い階段があります。横幅にして大体30mぐらいでしょうか。
それは、階段、、、というよりも、「いくつかの段差」と表現したほうがよいのかもしれません。。
3~4段程度できており、両脇には、人が抱きかかえられるぐらいのシンプルなつくりの円柱があります。
部屋全体が深い青の中、この柱だけは、なぜか、少し薄い青をしています。
周りには、誰もいません。彼ひとりのようです。
彼は、段を上りました。
段を上ると、少し奥のほうに、青いドレープのある服を着たおじいさんがいました。
真っ白いマユ。長い口ひげ。後ろ髪だけが生えている頭。
彼の指すべてに、とてもきれいな宝石の指輪がはめられていました。
ガーネット、トパーズ、パール、フルオライト、琥珀、マーブル、トルコ石、ルビー、アクアマリン、翡翠(ヒスイ)
それぞれの指輪は、すぐにその石とわかるほどの 大きな宝石をはめています。
「おじいさん、とてもきれいな指輪をしていますね。
その指輪には、いったいどんな意味があるのですか?」
彼は尋ねました。
「この指輪はね、ひとつひとつが、それぞれの宇宙なんだよ」
「私はこの部屋を管理しているんだ。」
おじいさんは無表情にこたえました。
「管理・・・。あなたは、何をしている人なのですか??」
彼は、再び尋ねました。
「私はな、この部屋で客を迎え入れている。
客人は、この部屋で少しの時を過ごし、また、
この部屋を後にする。
それを見送るまでが、私の仕事だ。」
彼は、その答えを聞くと、何かに気づいたように
おじいさんの後ろのほうへと、ふと目を向けました。
よく見ると、少し奥に、女性がいます。
その女性は、青い肌をしており、白と水色で、金の縁取りが施された衣を着ていました。
おじいさんは、相変わらず、無表情なままです。
彼は、その女性のほうへと近づいていきました。
ああ、
とても、、、、
うつくしい。。。
近目にみると、とても美しく、まるで一点の美術作品、彫刻のようです。
ラピスラズリよりも、深い青。
黒真珠のように、魅惑的な瞳。
切れ長の目に、少しだけ紫色をした唇。
すっときれいな鼻をした彼女は、まったく表情を変えません。
その無表情さは、まるで彼女の変わることのない美を表現しているかのようです。
作られたかのような美女。
むしろ、彼女は、人間というよりも、彫刻に近い存在なのかもしれません。
彼は、彼女に話かけてみました。
しかし、彼女は異国のことばを少し早口で話し始め、聞き取ることができません。
「アムシュカ ベルキマシュ レスコンバ カムシュモスバス・・・・」
こんな感じの、少し不思議なことばを、彼女は話し始めました。
それから、また再び話を続けようとしましたが、意思の疎通ははかれそうにありません。
「ううん。。。。今は、少し、わからないな。」
そう思った彼は、無表情な二入に挨拶をし、
その場を後にして、前世へと旅立つことにしました。
そこは、まだ舗装されていない、とても穏やかな田舎道でした。
空は青。
左手に柵があり、柵の向こう側は、牧場のようです。
中には、花が咲いています。
右手には、草原が広がるばかり。
近くには、赤い屋根の家がありました。
彼は、自分の姿を見ました。
白くて長い手、薬指がちょっとだけ長い。
年齢は、大体17歳ぐらい。
名前は、マリアンといいます。
ウェーブのかかった、ノースリーブのドレスを着ています。
白がベースとなった生地、動きやすいデザイン、
繊細なつぼみの模様がつけられたレース。
あまりにも繊細なその模様のせいで、遠くから見ると、
まるで茶色のワンピースを着ているように見えます。
お父さんからもらった軍人さん用のブーツを泥まみれにしながら、
特にアテもなく、てくてくと田舎道を歩いていました。
おてんばな彼女にとっては、このお散歩が冒険。
しばらく歩くと、向こうのほうが森が見えてきました。
彼女は、すぐさま、森の中を探検することにして、その森の中へと入っていきました。
その森は、ひんやりしていて、木漏れ日が気持ちよく、
どこからか、小鳥のさえずりが聞こえます。
緑の木々は、風を受けてざわめきます。
この森の中にいるだけで、
体の中に、森の命が入ってくるようです。
とっても気持ちがいい。。。。
マリアンは、一時の間、ここで森の息吹を感じていました。
しばらくすると、森の奥、遠くのほうから、馬車の音が聞こえてきました。
馬車はマリアンのほうへ近づいてきて、彼女の目の前で足を止めました。
中から、赤茶色のマントを着た、紳士的な青年が出てきます。
マリアンは、彼のことをよく知っていました。
彼の名前は、ギルバート。
二人は、小さな頃からの幼馴染で、よく二人で遊んでいました。
二人はお互いのことを良く知っている。
ギルバートとマリアンは、その幼少期、青年期の大半を二入で過ごしていました。
「大人になって、お互い一人だったら、結婚しよう」
そんな約束を交わした二人。
ギルバートにとっては、マリアンはかけがえのない存在です。
マリアンにとっても、ギルはかけがえのない存在。
でも、二人はしばしば衝突することがありました。
ギルバートは、馬車から降りざまに、マリアンにいいます。
「おい! マリアン! おうちへもどれよ。
ご両親だって、心配しているだろう!?」
「いやよ!!あんな親のもとになんか、帰りたくない!!」
そういったのを皮切りに、二人は口げんかを始めました。
静寂だった森に、少しの間ほほえましい喧騒が生まれました。
そうして、しばらくの時間がたち、、、
ギル
「戻りなさい!!」
マリアン
「!!!!!!
この!!!!
おせっかいやき!!!」
ギル
「。。。。」
ギルバート、この一言は少しこたえたようです。
傷ついた様子で、ギルバートは、黙り込みました。
それをみたマリアン、
ちょっとだけ「いらっ!」ときました。
振り向いて、ギルバートが来た道とは反対の道へ歩き出します。
彼は、何もいわずに、無言のまま。落ち着かない感じです。
マリアンは、ギルから大切にされているのはわかっています。
でも、マリアンが彼にもとめているのは、そういったものではないのです。
彼女は、ギルのことなど気にせずに、つかつかと歩き始めます。
ギルバートもマリアンを追って歩き出します。
無言のままのふたり。
きまずい空気が流れたまま、二人は、しばらくの間、その田舎道を歩き続けました。
もう、かなりの距離を歩いたでしょうか。
二人は、いつのまにか見たことのない街にたどり着いていました。
その街はとてもにぎやかです。
露店のおばさんは楽しそうに商売をして、
かけっこをしているのでしょうか、はしゃいでかけめぐる子供。
タバコを吸っているおじさんや、
ほんのさっきまで生きていた、つられた牛のお肉をさばいているおじさんがいます。
街中に元気があふれています。
まさに、お祭り騒ぎということばがぴったりです。
どうやら、遠くの国の、宮廷お抱えの劇団が公演に来ているようす。
マリアンは、ものめずらしいこの劇団に、とても興味を抱いています。
彼女はうきうき、わくわくしていますが、ギルは、なんだか戸惑っているみたいです。
「行きましょうよ!」
「私たち、すごくラッキーじゃない!?たまたまこんな面白いイベントに出会えるなんて!」」
マリアンは、行く気満々です
「さー、さー!!そろそろ始まるよ~~!」
周りのみんなが、騒がしくなりました。そろそろ舞台が始まるようです。
マリアンは、二人分のチケットを買いました。
もちろん、支払いは彼女の右隣にいる小さな紳士にお任せ。
もぎりの人にチケットを渡し、
わくわくしながら会場に入ると、
そこには、数え切れないぐらいの人がいました。
まるで、この国中の人がここに集まっているのではないかと思うぐらいの、
とても大きな会場。
彼女は、きょろきょろしながら、座席を探しています。
ちょうど良い場所に、二つ、席があいています。
マリアンは、隣の紳士の手をつないで一直線にその座席へ向かっていきました。
ちょうど、ギルバートが席に着いたとき、、、
いよいよ、劇の始まりです。
舞台では、黒い服の小男が、なにやら、異国のことばで話しています。
アナウンスをしているのでしょうか。
マリアンは、何を話しているのかよくわかりませんでしたが、
そんなことは、彼女には関係ありません。
身を乗り出して、目を輝かせながら、舞台を見ています。
暗闇の中、会場中の光を集めたその瞳は、宝石のように輝いています。
ギルバートは、横目に彼女の瞳を見て、
ふっと柔らかい表情を浮かべ、
ひと呼吸しながら舞台中央を見ました。
さて、小男のアナウンスが終わると、舞台の奥から、
ハゲ頭で、むきむきとした体の男性が二人、出てきした。
その男達は、小男の両脇に止まったかと思うと、軽々とその小男を抱えあげ、舞台の奥へ連れて行きました。
小男は、おどけたようにきょろきょろしながら、会場の皆を和ませていきます。
さぁ、ここからが本番です。
舞台中央、天井から、一本のロープにつかまって、銀色の服を着たきれいな女性が降りてきました。
エキゾチックな音楽とともに、彼女の歌が会場を包み込みます。
とても素敵な歌声に、会場のみんなは、魅了され、うっとりしています。
やはり異国のことばで何を話しているのかはわかりませんが、そのしぐさや演出から察するに、
どうやら、男性を小馬鹿にした歌のようです。
歌の終盤に差し掛かると、黒い肌のたくましい男が出てきました。
丁寧に彼女を抱え、肩に乗せました。
美女は、観客に妖艶に挨拶をして、
男を舞台裏へと向かわせました。
歌姫が帰ると、再びその舞台に先ほどの小男が出てきました。
今度は、手に長いムチを持っています。
彼は、そのムチを使って、観客を笑わせようとするのですが、
どうもそのムチが長すぎて、うまく使えず、四苦八苦しています。
しかし、その姿はとても愉快で、観客は思わず笑い出してしまいました。
そうこうしているうちに、舞台では次の展開が始まります。
小男が、ムチに四苦八苦しているうちに、
天井から、白、緑、赤の大きな旗が垂れ下がってきました。
舞台の円周をなぞる 正三角形の形に配置されたその旗の上には、
3人の、とても愛嬌のある女性がいます。
背中には、腰からふくらはぎまで届くくらいの羽の束をつけています。
胸元をヒモで結んだ、かなり露出度の高いレオタードを着けて
彼女らは、とても軽やかに、楽しそうに、その旗を滑り降り、
舞台の上へと降り立ちました。
舞台に降り立った彼女らは、ムチを持った小男を引っ込め
三人で、また楽しそうに踊ります。
三人のダンスが終わると、会場は急に真っ暗になりました。
真っ暗な闇の中、
ぼうっぅ・・・・
ぼうっぅ
っと炎の塊が、そこかしこに燃え上がっては、消えていきます。
なんだ??
何が起こったんだろう??
会場は、先ほどの軽やかで楽しいフインキから一転して、
好奇と期待の色、一色になりました。
だんだん、炎が燃え上がるサイクルが早くなっていくと、
その瞬間!!
舞台の上部、空中に、大きな仮面が現れました!!
舞台上では、燃え続ける炎を背に、
浅黒い肌で、上半身が裸の男が立っています。
筋骨隆々なその体は、とても力強く、両手には、たいまつを持っています。
その男は、両手のたいまつをまるで魔法をかけたように、自在に操りました。
会場中に歓声が上がりました。。
ギルバートも、とても楽しそうに、その曲芸を見ていました。
一通り、たいまつ男のエンターテイメントが終わると、天井から再びロープが降りてきます。
男は、そのロープにつかまり、仮面やロープとともに、その舞台からいなくなりました。
さてさて、次は何が起こるのだろう。。。
観客の期待は高まります。
舞台そでには、何も起こる気配はありません。
ボコッ
ボコボコッ
グゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッ
どうしたことでしょう、舞台の、地面の土が盛り上がっていきます。
観客は、不思議そうな目でその地面を眺め始めました。
すこしすると、地面が盛り上がるのをやめて、、、
そのときです!
土の中から、手が生えてきました。
「手が生える」・・・なんだか奇異に聞こえるその表現が、おそらくこの状態を
一番的確にあらわしています。
まるで、初めて地上に出た双葉のように、
まるで、大地が天をつかむようにその手は、観衆の前に姿を現しました。
それから、その手は、崖から這い上がるクライマーのように、
ゆっくりと確実に大地をつかみ
じょじょにその手の主が、大地から姿を現しました。
砂をかぶっていて、真っ白な髪と肌。
緑色の瞳と、よく整ったその容姿。
地面から出てきたのは、二人の双子でした。
一人は男性。もう一人は、女性です。
二人は、エキゾチックなダンスを踊りはじめました。。
観衆がそのなまめかしいダンスに魅了されている中、
マリアンは二人の中に怒りの感情があることを感じていました。
それは、今の待遇に満足していない怒り。
二人は、たちたくってその舞台に立っているのではない。
仕事だから、仕方なく踊っているんだ。
そんな二人の感情を、マリアンは人知れず読み取っていました。
さて、そろそろ舞台も幕を下ろす時間です。。
先ほどの二人も、ダンスを終え、
いままで舞台に出てきたすべての人が、一堂に並びました。
皆、観客のほうへ向かってお辞儀をしています。
先ほどの双子も、このときばかりは、とても晴れやかな表情をしています。
どうやら、彼らもとても充実しているようです。
「もしかしたら、さっきのダンスの中で感じた二人の怒りは、
ただの演技か、私の勘違いだったのかもしれないな」
マリアンは充実した表情の二人を見て、そんなことを考えました。
小男、歌姫、三人娘、たいまつ男、双子、そのほか、多くの出演者達。
皆、とても晴れやかな表情をして観客に丁寧にお辞儀をしています。
観客も、割れんばかりの拍手を以って、そのお辞儀に答えています。
この会場にいるすべての人が、今日、最高の舞台を共有したことに喜びを感じていました。
出演者達は、とても満足そうにしています。
会場の皆に惜しまれる中、舞台に幕が下りていきました。
舞台に幕が下り、観客は皆楽しそうに出口のほうへと向かっていきます。
「ギル! すっごく面白かったね!」
マリアンは、先ほどと同じきらきらした目でギルバートのほうを見ました。
「ああ、そうだね。」
ギルは、味気なく答えます。
「もう帰ろうよ、マリアン」
つまんない男だな。。。マリアンは、そう思いながらも、
さっきまで私達を魅了していた舞台に別れを告げ、
会場を出ることにしました。
マリアンの心の中では、まだ、
何度も何度も、あの舞台が繰り返されています。
二人は、人波に飲まれて、やっとのことで外に出ました。
どれほど時間がたっていたのでしょう。
外は、もう日が暮れています。
季節は春でしたが、
街の色はオレンジ色で、太陽が遠く、真横にあるその時間は、
ほんの少しだけ、冬の面影が顔を出し、空気はひんやりとしていました。
会場の門のそばには、いつの間にか、ギルバートの馬車が迎えに来ていました。
二人は、馬車の中に乗り込みます。
そろそろおうちに戻る時間です。
馬車は、マリアンたちの街、シュテールンに向かいます。
馬車にはいると、二人は一息つきました。
マリアンは、自分の足がむくんでいることに気がついて
ブーツを脱ぎました。
「ぎょうぎがわるいなぁ」
ギルバートは言いました。
マリアンは、そのことはあまり気にしませんでした。
「ねぇねぇ、ギル、今日の舞台、どうだった??」
マリアンは、いいました。
「ああ、とってもよかったよ。
ありがとう マリアン」
そのことばを聞いて、マリアンから笑顔がこぼれました。
「ギルが喜んでくれている。。。
とてもうれしい」
マリアンは、心のそこから、そう思ったのでした。
馬車がマリアンの家に着きました。
ギルと挨拶をしたら、馬車はまた歩みを始めました。
すこしだけギルを見送ったら、
マリアンは、家の中へと入っていきました。
「なんだか、今日はいろいろあったけど、
すごく充実した一日だったな。。。
今日やることは、全部やったって感じ。
すこし疲れたし、ご飯も、もういいや。
今日は、もう寝よぅ。。。」
マリアンは、今日は眠りにつくことにしました。
おやすみなさい。マリアン。
それからマリアンは、彼女の人生にとって、
とても重要だったシーンへと向かいます。
そこは、金ピカの、大きな建物の中です。
そこには、たくさんの人がいました。大体500人ぐらいでしょうか。
半分は、知っている人。
半分は、知らない人。
みんな、とてもきれいに、着飾っています。
マリアンは、建物の入り口左手に、たたずんでいます。
近くには、よく知った友人が一人いました。
すぐそばに、フルーツ・テーブルもあります。
マリアンは、上等な服をまとっています。
外は、あの日と同じ、夕暮れです。
建物の入り口から、ギルが入ってきました。
とても穏やかな表情をしています。
ギルの隣には、マリアンの友人であるソフィーがいました。
どうやら、今日は二人の結婚式のようです。
中へ入ってきた二人は、中央へ進み、
さらに、奥の祭壇へと向かっていきました。
司祭の前で、二人はお互いに誓いを交わし、
そこで、夫婦になりました。
その様子を見ていたマリアンの胸には、
明らかに、二人に対する怒りがありました。
なぜ怒っているか。
それは、寂しさから。
彼女は、ひどくこわばった顔をしていました。
血が、煮えたぎるように熱い。
そこにいる皆は、二人のことを祝福していました。
マリアンと、もう一人ソフィーに思いを抱いていた男
公爵、オルレアンを除いて。
オルレアンも、二人に対してマリアンと似たような感情を抱いていました
しかし、マリアンは、オルレアンのことが好きではありません。
彼には近づかないようにして、
彼女は、一人、その怒りをかみ締めていました。
ギル達二人は、それから、楽しそうにダンスを始めました。
とても、二人に声をかけるような気にはなれません。
ギルにも、もちろん、ソフィーにも、
彼女は、話しかけることなく、その会場を立ち去りました。
それから、いくらかの時が過ぎ、
マリアンは、彼女の部屋でギルとお茶を飲んでいました。
ギルは、結婚式のときと同じ、穏やかな顔。
彼女の部屋の、大きな窓からは、光が差し込んでいます。
大体、お昼の2時ごろでしょうか。
二人は、久々に会話をしていました。。
ギルはいいます。
「近々、子供が生まれるんだ。。。」
マリアンは答えました。
「そう。。。」
彼女の中には、複雑な想いがあるようです。
「なぜ、ソフィーと結婚しようと思ったの??」
彼女は聞きました。
ギルは答えます。
「彼女が、、、家庭的だからさ。」
マリアンは知っていました。
ギルが、私のことを世界中の誰よりも理解していたことを。
彼は、あたしが、やりたいことを我慢したままだと、
窒息して死んでしまうことを知っていた。
彼は、あたしの胸が悪いことも知っていた。
「あまり、無理をするなよ」って、言ってくれた。
彼は、あたしの手をほめてくれた。
「力強い手、きれいな手だ」ってほめてくれた。
それからあたしは、自分の手が好きになった。
それから、あたしはもう少し、ギルと話を続けた。
ギルは、「たまには、遊びにこいよ」って言ってくれたけど、
そんなこと、
そんなこと、できるわけないじゃない。。。
周りが、認めてくれるはずがないじゃない。
ギルには、家庭があって、あたしは女。
あたし達は、もう前みたいに、一緒にいることはできない。。。
あたしがギルの方を見つめると、
ギルはすこし険しい顔で、言った。
「すまない・・・・」
そんな、、、そんなこといわれたら、
泣きそうになるじゃない。
あたしは、下を向いた。
ギルはきっと知ってたの。
自分では、きっとあたしのことを幸せにはできないってこと。
あたしが本当に幸せになるためには、
自分は近くにいちゃいけないって、勝手にそう思って、
無理やりあたしから離れようとして、、、
あたしと一緒にいると、自分も、
苦しくなってしまうってこと知ってて。。。
「そろそろ、時間だな。。。」
あたしは、うつむいたまま、そのことばを聞いた。
ギルは、そういうと、ゆっくりと席を立った。
ギルは、玄関に向けてゆっくり歩き出した。
あたしも後ろから、その後をついていった。。。
あの日、馬車で迎えに来てくれてたときとは反対に、
あたしが無言のままギルについていく。。
玄関につくと、ギルはおもむろに立ち止まった。
ポケットに手を入れて、何か、ごそごそ探してる。。。
ギルの手が何かをつかんだままポケットからゆっくりと出てきて、
うつむいているあたしの顔の下でとまった。
「マリアン、これ、、、、」
ギルは、ゆっくり手のひらを開けた。
そこには、小さい頃、あたしがギルにあげたどんぐりがあった。
ギルとあたしがまだ小さなころ、あたし達は、宝物交換をした。
宝物交換なんて、小さい時には、仲のいい友達とではよくある話でしょう?
ギルは、自分の大切な指輪をあたしにくれた。
「大人になって、お互い一人だったら、俺達結婚しよう」
そういって、ギルはあたしに指輪をくれた。
あたしは、大切なものを探すのがめんどくさくって、
その辺に転がっていたどんぐりをあげたの。
そのときは、ぜんぜん結婚のことなんて考えてなかった。
そのときのどんぐりだ。。。
あたしは、うつむいてて、ギルの顔が良く見えなかった。
ギルは、あたしの手をとると、あたしの手のひらの中に、
そのどんぐりを置いた。
それから、ギルは、ゆっくりと振り向いて、玄関を降りて、、、
向こうのほうへと歩いていった。
あたしがうつむくのをやめて、向こうを見たとき、
もう、ギルの姿はそこにはなかった。
それからあたしは、自分の部屋へ戻った。
いすに座り、一息ついた。
悔しい。。。
深く後悔してる。
女に生まれたことを、
女にさえ生まれなければ、きっとこんな気持ちにはならなかった。
あの指輪も、、、捨ててしまおう。
あたしはそう思った。
ギルは、あたしにとって、影のような存在。
気づいたら、いつもそばにいる。
あたしの分身のような存在で、
そりゃ、楽しい時だって、いらいらする時だってあったけど、
二人でいるのが普通だった。
いつも、あまりに近くにいるから、
ギルのこと、特別だって認めたくなかった。
でも、今は、、、
二人で、家庭を作りたい。。。。
でも、今となっては、あたしは、どうすればいいのかわからない。
もし、あたしが、男でさえあったなら、
お互い、家庭を築いたとしても、一緒に仲良くいれたのに。。。
ギルバート。。。
私の心に、ポッカリと穴が開いた。
何を以ってしても、埋めることのできない穴。
それから、ずいぶんと長い時が経ち、、、
そこには、たくさんの人がいました。皆、いすに座っています。
大体、1000人ぐらいでしょうか。
両側には、大きなカーテンがあり、高い天井があります。
そこは、劇場のようです。
マリアンは、ステージの上にいて、カウチ、
つまり、長いすに一人、横になって話をしている。
昨日、生爪が剥げてしまった。という内容の話をしています。
一人芝居をしているようです。
観客は、わらったり、驚いたり、涙したり、真剣に舞台を見ています。
皆、わくわくして見ています。
観客の中、二階の左手の方にはギルバートもいます。
とても楽しそうにしています。
ギルは40才間近になっていて、
もう結婚して、だいぶたっているようです。
舞台が終わり、マリアンは、立ち上がって観客に向かってお礼を言いました。
ただただ、「ありがとう」と繰り返しています。
彼女は、なぜ舞台の道を選んだのでしょう。
もう、かれこれ十何年も前、
ギルが結婚してからしばらくの間、日々がむなしく過ぎていました。
そんなある日、友人に誘われて、舞台を見に行きました。
偶然にも、講演が行われるのは、いつかギルと一緒に舞台を見た街です。
彼女は、舞台を見ていた間だけは、
久々に、あの頃のようなわくわくした心を取り戻していました。
ちょっと、やってみようかな。。。
そう思った彼女は、その劇団の団長に話しをしてみました。
「あんた、何か、人に誇れるような特別なもの持ってるか?」
団長は聞きました。
「あたし、、、、自分の手が好きです」
彼女は、よくギルからほめてもらった手を団長に差し出しました。
「それじゃ、話にならないな」
団長は言いました。
そういわれたマリアンは、踊りを覚えることにしました。
踊っている間は、楽しかった。
家は、決して貧しくはなかったけれども、
好きなことを何でもできるほど、裕福ではなかった。
マリアンは、今の生活を忘れたくてしょうがありませんでした。
踊っている間は、非日常でいられる。
劇団にかかわっている間は、少なくとも、日常のことは考えなくてもいい。
そう思って、マリアンは、舞台を始めました。
それから時が経ち、気づけば数多くの舞台に立っていました。
とにかく、たくさんの舞台に立ってきた。
年齢も、50歳は過ぎていました。
彼女は、いろんな舞台をこなしているうちに、
すこしづつ自分の舞台を作れるほどになっていました。
だんだん、自分の舞台を作れるようになるにつれて、
だんだん、本当の自分自身、
よくわからなかった自分のことが見えてくるような気がして、
誰か、、、何か、もっと大きな存在、
ギルよりも、大きなものに近づいてくるような気がして、
それに近づいていきたい。
それは、もしかしたら、神様と呼ばれる存在なのかも知れない。
知らないうちに、マリアンは、
だんだんと、自分のことを好きになってきていました。
拍手喝さいを受けながら、マリアンは、今日の舞台を終えました。
あの日と同じ。
会場中が同じ時間を共有したことを幸せに感じている。
ただ、一点違うのは、彼女の居場所が、
観客席から、舞台へと移ったこと。
その日は、マリアンはこの世で一番尊敬するおばあさんの家へ行きました。
そのおばあさんは、白髪で、黒服、もともとお医者さんだった方です。
彼女がダンスを始めた頃、練習が終わると足や腰、ヒザをよくいためていたマリアンは、
彼女のところへ通っていました。
おばあさんは、薬草を使って、体を治してくれます。
マリアンは、そのおばあさんのつよさを尊敬しており、
よく話を聞いてくれる彼女のことがとても大好きでした。
おばあさんは、若い頃に、娘を亡くし、だんなさんを亡くし、
魔女狩りにもあい、左足も失っていました。
自分には、想像もつかないような、苦労を味わっているにもかかわらず、
おばあさんは、いつも元気にしています。
自分の力で身に着けた薬草の知識を使って、人々の役にも立っています。
「おばぁさん あたし、今度の作品のオーディションに出るんだよ」
「そうかい。。。」
おばあさんは、興味がなさそうに答えました。
いつもと変わらない無表情。
マリアンは、なにやら不安そうな表情をしています。
おばぁさんは、その澄んだ瞳で、彼女の方を見つめ、いいました。
「あんたは、いっつも、隠すの上手。
そんなに、怖がらなくてもいいのに。
別に、死ぬわけじゃないんだから、
隠さなくていいものは、隠さなくていい。。。。。
ばかだねぇ。。。」
マリアンは、なきそうな顔になりました。
「・・・・・・・」
「さ、わかったら、考えてないで、さっさと出ていきな」
おばあさんは、いいました。
マリアンは丁寧にお辞儀をして、おばあさんの家を後にしました。
どんな人生にも終わりはあります。
目を開けると、そこには、天井がありました。
隣には、親友のメグが、マリアンの手を握り
「あいしている」
といっています。
どうやら、ずっとごまかしてきた胸の病気が限界に来てしまったようです。
周りには、お医者様。劇団の仲間。そして、メグがいます。
メグ以外は、みんなみっともなく、泣きそうな顔をしています。
そこには、ギルはいません。
体が、熱くなってくる。
でも、私は、今、何を感じているのか、もうわからない。
痛みを感じる、元気すらない。
「アツイ」と「ツメタイ」が、鼓動のように、交互に彼女を包み込みます。
そろそろ、お別れの時間のようです。
「女でいるのは、大変だった。。。。
でも、楽しかったわ、、、
今度は、男にでもなろうかしら。
男になれば、今度は、できなかった役もできる。
メグにも『愛してる』っていえる。」
そんなことを考えながら、
なつかしい気持ちに包まれながら、
彼女は、息を引き取りました。
もっと、いろんなことをしたかった。。。
できることなら、家庭を持ちたかった。
やり残したことだらけだけど、
もし、この人生やり直せるなら、
大切な人に、気持ちを伝えたかった。。。。
私は、この人生でとても誇れるものがある。
それは、「作りたい作品を、作った」ってこと。
赤と紫の布をまとった、黒髪の上半身裸で筋肉質な男のダンサーが。
その布をたくみに使って踊る舞台。
最後は、その布をうまいぐあいに絡み合わせ、
さなぎのように、宙吊りになって終わる。
そんな舞台。
見ようとしても、見えない世界がある。
布一枚の向こう側は誰見の見ることなんてできないでしょう?
布を上からひっぱって、見えないものを、無理やり見たとしても、
がっかりするだけ。
本当に見ようとしたものの中なんて、見えないのよ。
全部、頭の中にあるだけなの。
わかった気になっても、結局、何にもわかっちゃいないんだから。
私は、そんな思いをこの舞台に込めた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・
ほんと、女でいるのは、大変だった。
でも、、、、
楽しかった。
気がつけば、マリアンと呼ばれていた存在は、
青い部屋にいました。そこには、例の管理人と彫刻の人がいます。
前は、わからなかったけど、今なら、彼女とお話ができる気がしました。
マリアンは、彫刻の人に話しかけました。
相変わらず、彫刻の人は、無表情に答えます。
しかし、今度は、メッセージを受け取ることができました。
「あなたは、~~~(聞き取り不可)~~~、大切なものを持っているから、
楽しかったでしょう。これからも、きっと楽しいことがあります。
~~~(聞き取り不可)~~~ 」
ところどころは、聞き取れません。
彫刻の人は、再び言いました。
「心を開くのはいいけれど、開きすぎると、余計なものが入り込むから。。。。」
といって、マリアンのおでこに、キスをしてくれました。
美しい人だな。マリアンは、そう思いました。
それから、彼女は、管理人さんとお話をしました。
「欲張りだ。とにかく、欲張りだから、次も欲張りなままだろう。」
管理人さんは、笑いながらいいました。
「なるんだったら、愉快な役割を担いなさい。」
そういうと、後は、延々、笑っているだけでした。
不思議なこの空間。
近くには、ほかの存在も感じましたが、
「いた」と思ったら、すぐに消えてしまいます。
マリアンは、近くにあった段差を降り、
そろそろ、現世に下りたとうと考えていました。
しかし、その前に、前世で親しくしていた人と会いたいと思いました。
ここは、不思議な空間でした。
マリアンが目をつぶると、そこには、ギルバート、メグ、
そして、いつか見た舞台の双子、おばあさんや、劇団の人、
いろんな人が、マリアンの周りを取り囲んでいました。
マリアンは、それぞれの人と話します。
ギルバートは、穏やかな表情で、
「次に、会うことがあれば、釣りに行こう。
一足先に、まってる」
といっています。
メグは、うれしいような困ったような表情で、
「うそついたら、許さない」
といって、手を離そうとしません。
双子は、相変わらず、起こったような表情で
「次もおんなじような仕事をするのかい?どうしょうもないな。
怒りや、理不尽には、気をつけな」
といってくれました。
おばあさんは、
「薬の飲みすぎには、気をつけな」
といってくれています。
そんな風に話をしているうちに、周りの存在の人の、
だんだん消えていきます。
皆、別の場所へ向かったのでしょうか。
彼女も、そろそろ、次の世界へと向かうことにしました。
彼女は次の世界に行く前に、管理人さんに聞いてみました。
「私は、次の世界でも、作品を残せるでしょうか??」
管理人さんは答えました。
「創造は、散文的なものである。きっと、同じようなことをするだろう。」
どういう意味なんだろう??
彼女は、意味を尋ねましたが、彼は何も言ってくれません。
じっと見ていると、管理人さんの目から、光を放つ鳥が出てきました。
なんだか、奇妙な光景なのですが、違和感がありません。
この鳥とは、なんだか、すぐに会えそうな気がするな。
彼女は最後に、次の世界での課題を管理人さんと彫刻の人に聞いてみました。
彫刻の人は言います。
「歌うこと」
管理人さんは言います。
「手紙」
そろそろ、次の人生が始まる時間のようです。
そのことばを受け取った彼女は、
今度の人生では、望みどおり、男性となりました。
いろいろな役を演じられることを期待しています。
現在、県内各方面での芸術活動に精を出しています。
彼には、まず、中間世へ降りてもらいました。
そこは、全体が青い、とても大きな部屋でした。
部屋の大きさがどのくらいかは、具体的にはわかりません。
両端は、ぼんやりしていて見えませんでした。
なんとなく、奥には壁があるような、もしかしたら、
壁なんて存在せず、ただ、そこは霧が立ち込めているだけのような、
そんな、不思議な空間でした。
床は、よく磨かれたラピスラズリのような、深い青。
つるつるしているその床は、覗き込む者の顔をよく映し出していました。
触れてみると、ひんやりと、少し冷たく、かたい。
この部屋全体の構造物がこの床の材質でできているようです。
目の前には、とても広い階段があります。横幅にして大体30mぐらいでしょうか。
それは、階段、、、というよりも、「いくつかの段差」と表現したほうがよいのかもしれません。。
3~4段程度できており、両脇には、人が抱きかかえられるぐらいのシンプルなつくりの円柱があります。
部屋全体が深い青の中、この柱だけは、なぜか、少し薄い青をしています。
周りには、誰もいません。彼ひとりのようです。
彼は、段を上りました。
段を上ると、少し奥のほうに、青いドレープのある服を着たおじいさんがいました。
真っ白いマユ。長い口ひげ。後ろ髪だけが生えている頭。
彼の指すべてに、とてもきれいな宝石の指輪がはめられていました。
ガーネット、トパーズ、パール、フルオライト、琥珀、マーブル、トルコ石、ルビー、アクアマリン、翡翠(ヒスイ)
それぞれの指輪は、すぐにその石とわかるほどの 大きな宝石をはめています。
「おじいさん、とてもきれいな指輪をしていますね。
その指輪には、いったいどんな意味があるのですか?」
彼は尋ねました。
「この指輪はね、ひとつひとつが、それぞれの宇宙なんだよ」
「私はこの部屋を管理しているんだ。」
おじいさんは無表情にこたえました。
「管理・・・。あなたは、何をしている人なのですか??」
彼は、再び尋ねました。
「私はな、この部屋で客を迎え入れている。
客人は、この部屋で少しの時を過ごし、また、
この部屋を後にする。
それを見送るまでが、私の仕事だ。」
彼は、その答えを聞くと、何かに気づいたように
おじいさんの後ろのほうへと、ふと目を向けました。
よく見ると、少し奥に、女性がいます。
その女性は、青い肌をしており、白と水色で、金の縁取りが施された衣を着ていました。
おじいさんは、相変わらず、無表情なままです。
彼は、その女性のほうへと近づいていきました。
ああ、
とても、、、、
うつくしい。。。
近目にみると、とても美しく、まるで一点の美術作品、彫刻のようです。
ラピスラズリよりも、深い青。
黒真珠のように、魅惑的な瞳。
切れ長の目に、少しだけ紫色をした唇。
すっときれいな鼻をした彼女は、まったく表情を変えません。
その無表情さは、まるで彼女の変わることのない美を表現しているかのようです。
作られたかのような美女。
むしろ、彼女は、人間というよりも、彫刻に近い存在なのかもしれません。
彼は、彼女に話かけてみました。
しかし、彼女は異国のことばを少し早口で話し始め、聞き取ることができません。
「アムシュカ ベルキマシュ レスコンバ カムシュモスバス・・・・」
こんな感じの、少し不思議なことばを、彼女は話し始めました。
それから、また再び話を続けようとしましたが、意思の疎通ははかれそうにありません。
「ううん。。。。今は、少し、わからないな。」
そう思った彼は、無表情な二入に挨拶をし、
その場を後にして、前世へと旅立つことにしました。
そこは、まだ舗装されていない、とても穏やかな田舎道でした。
空は青。
左手に柵があり、柵の向こう側は、牧場のようです。
中には、花が咲いています。
右手には、草原が広がるばかり。
近くには、赤い屋根の家がありました。
彼は、自分の姿を見ました。
白くて長い手、薬指がちょっとだけ長い。
年齢は、大体17歳ぐらい。
名前は、マリアンといいます。
ウェーブのかかった、ノースリーブのドレスを着ています。
白がベースとなった生地、動きやすいデザイン、
繊細なつぼみの模様がつけられたレース。
あまりにも繊細なその模様のせいで、遠くから見ると、
まるで茶色のワンピースを着ているように見えます。
お父さんからもらった軍人さん用のブーツを泥まみれにしながら、
特にアテもなく、てくてくと田舎道を歩いていました。
おてんばな彼女にとっては、このお散歩が冒険。
しばらく歩くと、向こうのほうが森が見えてきました。
彼女は、すぐさま、森の中を探検することにして、その森の中へと入っていきました。
その森は、ひんやりしていて、木漏れ日が気持ちよく、
どこからか、小鳥のさえずりが聞こえます。
緑の木々は、風を受けてざわめきます。
この森の中にいるだけで、
体の中に、森の命が入ってくるようです。
とっても気持ちがいい。。。。
マリアンは、一時の間、ここで森の息吹を感じていました。
しばらくすると、森の奥、遠くのほうから、馬車の音が聞こえてきました。
馬車はマリアンのほうへ近づいてきて、彼女の目の前で足を止めました。
中から、赤茶色のマントを着た、紳士的な青年が出てきます。
マリアンは、彼のことをよく知っていました。
彼の名前は、ギルバート。
二人は、小さな頃からの幼馴染で、よく二人で遊んでいました。
二人はお互いのことを良く知っている。
ギルバートとマリアンは、その幼少期、青年期の大半を二入で過ごしていました。
「大人になって、お互い一人だったら、結婚しよう」
そんな約束を交わした二人。
ギルバートにとっては、マリアンはかけがえのない存在です。
マリアンにとっても、ギルはかけがえのない存在。
でも、二人はしばしば衝突することがありました。
ギルバートは、馬車から降りざまに、マリアンにいいます。
「おい! マリアン! おうちへもどれよ。
ご両親だって、心配しているだろう!?」
「いやよ!!あんな親のもとになんか、帰りたくない!!」
そういったのを皮切りに、二人は口げんかを始めました。
静寂だった森に、少しの間ほほえましい喧騒が生まれました。
そうして、しばらくの時間がたち、、、
ギル
「戻りなさい!!」
マリアン
「!!!!!!
この!!!!
おせっかいやき!!!」
ギル
「。。。。」
ギルバート、この一言は少しこたえたようです。
傷ついた様子で、ギルバートは、黙り込みました。
それをみたマリアン、
ちょっとだけ「いらっ!」ときました。
振り向いて、ギルバートが来た道とは反対の道へ歩き出します。
彼は、何もいわずに、無言のまま。落ち着かない感じです。
マリアンは、ギルから大切にされているのはわかっています。
でも、マリアンが彼にもとめているのは、そういったものではないのです。
彼女は、ギルのことなど気にせずに、つかつかと歩き始めます。
ギルバートもマリアンを追って歩き出します。
無言のままのふたり。
きまずい空気が流れたまま、二人は、しばらくの間、その田舎道を歩き続けました。
もう、かなりの距離を歩いたでしょうか。
二人は、いつのまにか見たことのない街にたどり着いていました。
その街はとてもにぎやかです。
露店のおばさんは楽しそうに商売をして、
かけっこをしているのでしょうか、はしゃいでかけめぐる子供。
タバコを吸っているおじさんや、
ほんのさっきまで生きていた、つられた牛のお肉をさばいているおじさんがいます。
街中に元気があふれています。
まさに、お祭り騒ぎということばがぴったりです。
どうやら、遠くの国の、宮廷お抱えの劇団が公演に来ているようす。
マリアンは、ものめずらしいこの劇団に、とても興味を抱いています。
彼女はうきうき、わくわくしていますが、ギルは、なんだか戸惑っているみたいです。
「行きましょうよ!」
「私たち、すごくラッキーじゃない!?たまたまこんな面白いイベントに出会えるなんて!」」
マリアンは、行く気満々です
「さー、さー!!そろそろ始まるよ~~!」
周りのみんなが、騒がしくなりました。そろそろ舞台が始まるようです。
マリアンは、二人分のチケットを買いました。
もちろん、支払いは彼女の右隣にいる小さな紳士にお任せ。
もぎりの人にチケットを渡し、
わくわくしながら会場に入ると、
そこには、数え切れないぐらいの人がいました。
まるで、この国中の人がここに集まっているのではないかと思うぐらいの、
とても大きな会場。
彼女は、きょろきょろしながら、座席を探しています。
ちょうど良い場所に、二つ、席があいています。
マリアンは、隣の紳士の手をつないで一直線にその座席へ向かっていきました。
ちょうど、ギルバートが席に着いたとき、、、
いよいよ、劇の始まりです。
舞台では、黒い服の小男が、なにやら、異国のことばで話しています。
アナウンスをしているのでしょうか。
マリアンは、何を話しているのかよくわかりませんでしたが、
そんなことは、彼女には関係ありません。
身を乗り出して、目を輝かせながら、舞台を見ています。
暗闇の中、会場中の光を集めたその瞳は、宝石のように輝いています。
ギルバートは、横目に彼女の瞳を見て、
ふっと柔らかい表情を浮かべ、
ひと呼吸しながら舞台中央を見ました。
さて、小男のアナウンスが終わると、舞台の奥から、
ハゲ頭で、むきむきとした体の男性が二人、出てきした。
その男達は、小男の両脇に止まったかと思うと、軽々とその小男を抱えあげ、舞台の奥へ連れて行きました。
小男は、おどけたようにきょろきょろしながら、会場の皆を和ませていきます。
さぁ、ここからが本番です。
舞台中央、天井から、一本のロープにつかまって、銀色の服を着たきれいな女性が降りてきました。
エキゾチックな音楽とともに、彼女の歌が会場を包み込みます。
とても素敵な歌声に、会場のみんなは、魅了され、うっとりしています。
やはり異国のことばで何を話しているのかはわかりませんが、そのしぐさや演出から察するに、
どうやら、男性を小馬鹿にした歌のようです。
歌の終盤に差し掛かると、黒い肌のたくましい男が出てきました。
丁寧に彼女を抱え、肩に乗せました。
美女は、観客に妖艶に挨拶をして、
男を舞台裏へと向かわせました。
歌姫が帰ると、再びその舞台に先ほどの小男が出てきました。
今度は、手に長いムチを持っています。
彼は、そのムチを使って、観客を笑わせようとするのですが、
どうもそのムチが長すぎて、うまく使えず、四苦八苦しています。
しかし、その姿はとても愉快で、観客は思わず笑い出してしまいました。
そうこうしているうちに、舞台では次の展開が始まります。
小男が、ムチに四苦八苦しているうちに、
天井から、白、緑、赤の大きな旗が垂れ下がってきました。
舞台の円周をなぞる 正三角形の形に配置されたその旗の上には、
3人の、とても愛嬌のある女性がいます。
背中には、腰からふくらはぎまで届くくらいの羽の束をつけています。
胸元をヒモで結んだ、かなり露出度の高いレオタードを着けて
彼女らは、とても軽やかに、楽しそうに、その旗を滑り降り、
舞台の上へと降り立ちました。
舞台に降り立った彼女らは、ムチを持った小男を引っ込め
三人で、また楽しそうに踊ります。
三人のダンスが終わると、会場は急に真っ暗になりました。
真っ暗な闇の中、
ぼうっぅ・・・・
ぼうっぅ
っと炎の塊が、そこかしこに燃え上がっては、消えていきます。
なんだ??
何が起こったんだろう??
会場は、先ほどの軽やかで楽しいフインキから一転して、
好奇と期待の色、一色になりました。
だんだん、炎が燃え上がるサイクルが早くなっていくと、
その瞬間!!
舞台の上部、空中に、大きな仮面が現れました!!
舞台上では、燃え続ける炎を背に、
浅黒い肌で、上半身が裸の男が立っています。
筋骨隆々なその体は、とても力強く、両手には、たいまつを持っています。
その男は、両手のたいまつをまるで魔法をかけたように、自在に操りました。
会場中に歓声が上がりました。。
ギルバートも、とても楽しそうに、その曲芸を見ていました。
一通り、たいまつ男のエンターテイメントが終わると、天井から再びロープが降りてきます。
男は、そのロープにつかまり、仮面やロープとともに、その舞台からいなくなりました。
さてさて、次は何が起こるのだろう。。。
観客の期待は高まります。
舞台そでには、何も起こる気配はありません。
ボコッ
ボコボコッ
グゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッ
どうしたことでしょう、舞台の、地面の土が盛り上がっていきます。
観客は、不思議そうな目でその地面を眺め始めました。
すこしすると、地面が盛り上がるのをやめて、、、
そのときです!
土の中から、手が生えてきました。
「手が生える」・・・なんだか奇異に聞こえるその表現が、おそらくこの状態を
一番的確にあらわしています。
まるで、初めて地上に出た双葉のように、
まるで、大地が天をつかむようにその手は、観衆の前に姿を現しました。
それから、その手は、崖から這い上がるクライマーのように、
ゆっくりと確実に大地をつかみ
じょじょにその手の主が、大地から姿を現しました。
砂をかぶっていて、真っ白な髪と肌。
緑色の瞳と、よく整ったその容姿。
地面から出てきたのは、二人の双子でした。
一人は男性。もう一人は、女性です。
二人は、エキゾチックなダンスを踊りはじめました。。
観衆がそのなまめかしいダンスに魅了されている中、
マリアンは二人の中に怒りの感情があることを感じていました。
それは、今の待遇に満足していない怒り。
二人は、たちたくってその舞台に立っているのではない。
仕事だから、仕方なく踊っているんだ。
そんな二人の感情を、マリアンは人知れず読み取っていました。
さて、そろそろ舞台も幕を下ろす時間です。。
先ほどの二人も、ダンスを終え、
いままで舞台に出てきたすべての人が、一堂に並びました。
皆、観客のほうへ向かってお辞儀をしています。
先ほどの双子も、このときばかりは、とても晴れやかな表情をしています。
どうやら、彼らもとても充実しているようです。
「もしかしたら、さっきのダンスの中で感じた二人の怒りは、
ただの演技か、私の勘違いだったのかもしれないな」
マリアンは充実した表情の二人を見て、そんなことを考えました。
小男、歌姫、三人娘、たいまつ男、双子、そのほか、多くの出演者達。
皆、とても晴れやかな表情をして観客に丁寧にお辞儀をしています。
観客も、割れんばかりの拍手を以って、そのお辞儀に答えています。
この会場にいるすべての人が、今日、最高の舞台を共有したことに喜びを感じていました。
出演者達は、とても満足そうにしています。
会場の皆に惜しまれる中、舞台に幕が下りていきました。
舞台に幕が下り、観客は皆楽しそうに出口のほうへと向かっていきます。
「ギル! すっごく面白かったね!」
マリアンは、先ほどと同じきらきらした目でギルバートのほうを見ました。
「ああ、そうだね。」
ギルは、味気なく答えます。
「もう帰ろうよ、マリアン」
つまんない男だな。。。マリアンは、そう思いながらも、
さっきまで私達を魅了していた舞台に別れを告げ、
会場を出ることにしました。
マリアンの心の中では、まだ、
何度も何度も、あの舞台が繰り返されています。
二人は、人波に飲まれて、やっとのことで外に出ました。
どれほど時間がたっていたのでしょう。
外は、もう日が暮れています。
季節は春でしたが、
街の色はオレンジ色で、太陽が遠く、真横にあるその時間は、
ほんの少しだけ、冬の面影が顔を出し、空気はひんやりとしていました。
会場の門のそばには、いつの間にか、ギルバートの馬車が迎えに来ていました。
二人は、馬車の中に乗り込みます。
そろそろおうちに戻る時間です。
馬車は、マリアンたちの街、シュテールンに向かいます。
馬車にはいると、二人は一息つきました。
マリアンは、自分の足がむくんでいることに気がついて
ブーツを脱ぎました。
「ぎょうぎがわるいなぁ」
ギルバートは言いました。
マリアンは、そのことはあまり気にしませんでした。
「ねぇねぇ、ギル、今日の舞台、どうだった??」
マリアンは、いいました。
「ああ、とってもよかったよ。
ありがとう マリアン」
そのことばを聞いて、マリアンから笑顔がこぼれました。
「ギルが喜んでくれている。。。
とてもうれしい」
マリアンは、心のそこから、そう思ったのでした。
馬車がマリアンの家に着きました。
ギルと挨拶をしたら、馬車はまた歩みを始めました。
すこしだけギルを見送ったら、
マリアンは、家の中へと入っていきました。
「なんだか、今日はいろいろあったけど、
すごく充実した一日だったな。。。
今日やることは、全部やったって感じ。
すこし疲れたし、ご飯も、もういいや。
今日は、もう寝よぅ。。。」
マリアンは、今日は眠りにつくことにしました。
おやすみなさい。マリアン。
それからマリアンは、彼女の人生にとって、
とても重要だったシーンへと向かいます。
そこは、金ピカの、大きな建物の中です。
そこには、たくさんの人がいました。大体500人ぐらいでしょうか。
半分は、知っている人。
半分は、知らない人。
みんな、とてもきれいに、着飾っています。
マリアンは、建物の入り口左手に、たたずんでいます。
近くには、よく知った友人が一人いました。
すぐそばに、フルーツ・テーブルもあります。
マリアンは、上等な服をまとっています。
外は、あの日と同じ、夕暮れです。
建物の入り口から、ギルが入ってきました。
とても穏やかな表情をしています。
ギルの隣には、マリアンの友人であるソフィーがいました。
どうやら、今日は二人の結婚式のようです。
中へ入ってきた二人は、中央へ進み、
さらに、奥の祭壇へと向かっていきました。
司祭の前で、二人はお互いに誓いを交わし、
そこで、夫婦になりました。
その様子を見ていたマリアンの胸には、
明らかに、二人に対する怒りがありました。
なぜ怒っているか。
それは、寂しさから。
彼女は、ひどくこわばった顔をしていました。
血が、煮えたぎるように熱い。
そこにいる皆は、二人のことを祝福していました。
マリアンと、もう一人ソフィーに思いを抱いていた男
公爵、オルレアンを除いて。
オルレアンも、二人に対してマリアンと似たような感情を抱いていました
しかし、マリアンは、オルレアンのことが好きではありません。
彼には近づかないようにして、
彼女は、一人、その怒りをかみ締めていました。
ギル達二人は、それから、楽しそうにダンスを始めました。
とても、二人に声をかけるような気にはなれません。
ギルにも、もちろん、ソフィーにも、
彼女は、話しかけることなく、その会場を立ち去りました。
それから、いくらかの時が過ぎ、
マリアンは、彼女の部屋でギルとお茶を飲んでいました。
ギルは、結婚式のときと同じ、穏やかな顔。
彼女の部屋の、大きな窓からは、光が差し込んでいます。
大体、お昼の2時ごろでしょうか。
二人は、久々に会話をしていました。。
ギルはいいます。
「近々、子供が生まれるんだ。。。」
マリアンは答えました。
「そう。。。」
彼女の中には、複雑な想いがあるようです。
「なぜ、ソフィーと結婚しようと思ったの??」
彼女は聞きました。
ギルは答えます。
「彼女が、、、家庭的だからさ。」
マリアンは知っていました。
ギルが、私のことを世界中の誰よりも理解していたことを。
彼は、あたしが、やりたいことを我慢したままだと、
窒息して死んでしまうことを知っていた。
彼は、あたしの胸が悪いことも知っていた。
「あまり、無理をするなよ」って、言ってくれた。
彼は、あたしの手をほめてくれた。
「力強い手、きれいな手だ」ってほめてくれた。
それからあたしは、自分の手が好きになった。
それから、あたしはもう少し、ギルと話を続けた。
ギルは、「たまには、遊びにこいよ」って言ってくれたけど、
そんなこと、
そんなこと、できるわけないじゃない。。。
周りが、認めてくれるはずがないじゃない。
ギルには、家庭があって、あたしは女。
あたし達は、もう前みたいに、一緒にいることはできない。。。
あたしがギルの方を見つめると、
ギルはすこし険しい顔で、言った。
「すまない・・・・」
そんな、、、そんなこといわれたら、
泣きそうになるじゃない。
あたしは、下を向いた。
ギルはきっと知ってたの。
自分では、きっとあたしのことを幸せにはできないってこと。
あたしが本当に幸せになるためには、
自分は近くにいちゃいけないって、勝手にそう思って、
無理やりあたしから離れようとして、、、
あたしと一緒にいると、自分も、
苦しくなってしまうってこと知ってて。。。
「そろそろ、時間だな。。。」
あたしは、うつむいたまま、そのことばを聞いた。
ギルは、そういうと、ゆっくりと席を立った。
ギルは、玄関に向けてゆっくり歩き出した。
あたしも後ろから、その後をついていった。。。
あの日、馬車で迎えに来てくれてたときとは反対に、
あたしが無言のままギルについていく。。
玄関につくと、ギルはおもむろに立ち止まった。
ポケットに手を入れて、何か、ごそごそ探してる。。。
ギルの手が何かをつかんだままポケットからゆっくりと出てきて、
うつむいているあたしの顔の下でとまった。
「マリアン、これ、、、、」
ギルは、ゆっくり手のひらを開けた。
そこには、小さい頃、あたしがギルにあげたどんぐりがあった。
ギルとあたしがまだ小さなころ、あたし達は、宝物交換をした。
宝物交換なんて、小さい時には、仲のいい友達とではよくある話でしょう?
ギルは、自分の大切な指輪をあたしにくれた。
「大人になって、お互い一人だったら、俺達結婚しよう」
そういって、ギルはあたしに指輪をくれた。
あたしは、大切なものを探すのがめんどくさくって、
その辺に転がっていたどんぐりをあげたの。
そのときは、ぜんぜん結婚のことなんて考えてなかった。
そのときのどんぐりだ。。。
あたしは、うつむいてて、ギルの顔が良く見えなかった。
ギルは、あたしの手をとると、あたしの手のひらの中に、
そのどんぐりを置いた。
それから、ギルは、ゆっくりと振り向いて、玄関を降りて、、、
向こうのほうへと歩いていった。
あたしがうつむくのをやめて、向こうを見たとき、
もう、ギルの姿はそこにはなかった。
それからあたしは、自分の部屋へ戻った。
いすに座り、一息ついた。
悔しい。。。
深く後悔してる。
女に生まれたことを、
女にさえ生まれなければ、きっとこんな気持ちにはならなかった。
あの指輪も、、、捨ててしまおう。
あたしはそう思った。
ギルは、あたしにとって、影のような存在。
気づいたら、いつもそばにいる。
あたしの分身のような存在で、
そりゃ、楽しい時だって、いらいらする時だってあったけど、
二人でいるのが普通だった。
いつも、あまりに近くにいるから、
ギルのこと、特別だって認めたくなかった。
でも、今は、、、
二人で、家庭を作りたい。。。。
でも、今となっては、あたしは、どうすればいいのかわからない。
もし、あたしが、男でさえあったなら、
お互い、家庭を築いたとしても、一緒に仲良くいれたのに。。。
ギルバート。。。
私の心に、ポッカリと穴が開いた。
何を以ってしても、埋めることのできない穴。
それから、ずいぶんと長い時が経ち、、、
そこには、たくさんの人がいました。皆、いすに座っています。
大体、1000人ぐらいでしょうか。
両側には、大きなカーテンがあり、高い天井があります。
そこは、劇場のようです。
マリアンは、ステージの上にいて、カウチ、
つまり、長いすに一人、横になって話をしている。
昨日、生爪が剥げてしまった。という内容の話をしています。
一人芝居をしているようです。
観客は、わらったり、驚いたり、涙したり、真剣に舞台を見ています。
皆、わくわくして見ています。
観客の中、二階の左手の方にはギルバートもいます。
とても楽しそうにしています。
ギルは40才間近になっていて、
もう結婚して、だいぶたっているようです。
舞台が終わり、マリアンは、立ち上がって観客に向かってお礼を言いました。
ただただ、「ありがとう」と繰り返しています。
彼女は、なぜ舞台の道を選んだのでしょう。
もう、かれこれ十何年も前、
ギルが結婚してからしばらくの間、日々がむなしく過ぎていました。
そんなある日、友人に誘われて、舞台を見に行きました。
偶然にも、講演が行われるのは、いつかギルと一緒に舞台を見た街です。
彼女は、舞台を見ていた間だけは、
久々に、あの頃のようなわくわくした心を取り戻していました。
ちょっと、やってみようかな。。。
そう思った彼女は、その劇団の団長に話しをしてみました。
「あんた、何か、人に誇れるような特別なもの持ってるか?」
団長は聞きました。
「あたし、、、、自分の手が好きです」
彼女は、よくギルからほめてもらった手を団長に差し出しました。
「それじゃ、話にならないな」
団長は言いました。
そういわれたマリアンは、踊りを覚えることにしました。
踊っている間は、楽しかった。
家は、決して貧しくはなかったけれども、
好きなことを何でもできるほど、裕福ではなかった。
マリアンは、今の生活を忘れたくてしょうがありませんでした。
踊っている間は、非日常でいられる。
劇団にかかわっている間は、少なくとも、日常のことは考えなくてもいい。
そう思って、マリアンは、舞台を始めました。
それから時が経ち、気づけば数多くの舞台に立っていました。
とにかく、たくさんの舞台に立ってきた。
年齢も、50歳は過ぎていました。
彼女は、いろんな舞台をこなしているうちに、
すこしづつ自分の舞台を作れるほどになっていました。
だんだん、自分の舞台を作れるようになるにつれて、
だんだん、本当の自分自身、
よくわからなかった自分のことが見えてくるような気がして、
誰か、、、何か、もっと大きな存在、
ギルよりも、大きなものに近づいてくるような気がして、
それに近づいていきたい。
それは、もしかしたら、神様と呼ばれる存在なのかも知れない。
知らないうちに、マリアンは、
だんだんと、自分のことを好きになってきていました。
拍手喝さいを受けながら、マリアンは、今日の舞台を終えました。
あの日と同じ。
会場中が同じ時間を共有したことを幸せに感じている。
ただ、一点違うのは、彼女の居場所が、
観客席から、舞台へと移ったこと。
その日は、マリアンはこの世で一番尊敬するおばあさんの家へ行きました。
そのおばあさんは、白髪で、黒服、もともとお医者さんだった方です。
彼女がダンスを始めた頃、練習が終わると足や腰、ヒザをよくいためていたマリアンは、
彼女のところへ通っていました。
おばあさんは、薬草を使って、体を治してくれます。
マリアンは、そのおばあさんのつよさを尊敬しており、
よく話を聞いてくれる彼女のことがとても大好きでした。
おばあさんは、若い頃に、娘を亡くし、だんなさんを亡くし、
魔女狩りにもあい、左足も失っていました。
自分には、想像もつかないような、苦労を味わっているにもかかわらず、
おばあさんは、いつも元気にしています。
自分の力で身に着けた薬草の知識を使って、人々の役にも立っています。
「おばぁさん あたし、今度の作品のオーディションに出るんだよ」
「そうかい。。。」
おばあさんは、興味がなさそうに答えました。
いつもと変わらない無表情。
マリアンは、なにやら不安そうな表情をしています。
おばぁさんは、その澄んだ瞳で、彼女の方を見つめ、いいました。
「あんたは、いっつも、隠すの上手。
そんなに、怖がらなくてもいいのに。
別に、死ぬわけじゃないんだから、
隠さなくていいものは、隠さなくていい。。。。。
ばかだねぇ。。。」
マリアンは、なきそうな顔になりました。
「・・・・・・・」
「さ、わかったら、考えてないで、さっさと出ていきな」
おばあさんは、いいました。
マリアンは丁寧にお辞儀をして、おばあさんの家を後にしました。
どんな人生にも終わりはあります。
目を開けると、そこには、天井がありました。
隣には、親友のメグが、マリアンの手を握り
「あいしている」
といっています。
どうやら、ずっとごまかしてきた胸の病気が限界に来てしまったようです。
周りには、お医者様。劇団の仲間。そして、メグがいます。
メグ以外は、みんなみっともなく、泣きそうな顔をしています。
そこには、ギルはいません。
体が、熱くなってくる。
でも、私は、今、何を感じているのか、もうわからない。
痛みを感じる、元気すらない。
「アツイ」と「ツメタイ」が、鼓動のように、交互に彼女を包み込みます。
そろそろ、お別れの時間のようです。
「女でいるのは、大変だった。。。。
でも、楽しかったわ、、、
今度は、男にでもなろうかしら。
男になれば、今度は、できなかった役もできる。
メグにも『愛してる』っていえる。」
そんなことを考えながら、
なつかしい気持ちに包まれながら、
彼女は、息を引き取りました。
もっと、いろんなことをしたかった。。。
できることなら、家庭を持ちたかった。
やり残したことだらけだけど、
もし、この人生やり直せるなら、
大切な人に、気持ちを伝えたかった。。。。
私は、この人生でとても誇れるものがある。
それは、「作りたい作品を、作った」ってこと。
赤と紫の布をまとった、黒髪の上半身裸で筋肉質な男のダンサーが。
その布をたくみに使って踊る舞台。
最後は、その布をうまいぐあいに絡み合わせ、
さなぎのように、宙吊りになって終わる。
そんな舞台。
見ようとしても、見えない世界がある。
布一枚の向こう側は誰見の見ることなんてできないでしょう?
布を上からひっぱって、見えないものを、無理やり見たとしても、
がっかりするだけ。
本当に見ようとしたものの中なんて、見えないのよ。
全部、頭の中にあるだけなの。
わかった気になっても、結局、何にもわかっちゃいないんだから。
私は、そんな思いをこの舞台に込めた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・
ほんと、女でいるのは、大変だった。
でも、、、、
楽しかった。
気がつけば、マリアンと呼ばれていた存在は、
青い部屋にいました。そこには、例の管理人と彫刻の人がいます。
前は、わからなかったけど、今なら、彼女とお話ができる気がしました。
マリアンは、彫刻の人に話しかけました。
相変わらず、彫刻の人は、無表情に答えます。
しかし、今度は、メッセージを受け取ることができました。
「あなたは、~~~(聞き取り不可)~~~、大切なものを持っているから、
楽しかったでしょう。これからも、きっと楽しいことがあります。
~~~(聞き取り不可)~~~ 」
ところどころは、聞き取れません。
彫刻の人は、再び言いました。
「心を開くのはいいけれど、開きすぎると、余計なものが入り込むから。。。。」
といって、マリアンのおでこに、キスをしてくれました。
美しい人だな。マリアンは、そう思いました。
それから、彼女は、管理人さんとお話をしました。
「欲張りだ。とにかく、欲張りだから、次も欲張りなままだろう。」
管理人さんは、笑いながらいいました。
「なるんだったら、愉快な役割を担いなさい。」
そういうと、後は、延々、笑っているだけでした。
不思議なこの空間。
近くには、ほかの存在も感じましたが、
「いた」と思ったら、すぐに消えてしまいます。
マリアンは、近くにあった段差を降り、
そろそろ、現世に下りたとうと考えていました。
しかし、その前に、前世で親しくしていた人と会いたいと思いました。
ここは、不思議な空間でした。
マリアンが目をつぶると、そこには、ギルバート、メグ、
そして、いつか見た舞台の双子、おばあさんや、劇団の人、
いろんな人が、マリアンの周りを取り囲んでいました。
マリアンは、それぞれの人と話します。
ギルバートは、穏やかな表情で、
「次に、会うことがあれば、釣りに行こう。
一足先に、まってる」
といっています。
メグは、うれしいような困ったような表情で、
「うそついたら、許さない」
といって、手を離そうとしません。
双子は、相変わらず、起こったような表情で
「次もおんなじような仕事をするのかい?どうしょうもないな。
怒りや、理不尽には、気をつけな」
といってくれました。
おばあさんは、
「薬の飲みすぎには、気をつけな」
といってくれています。
そんな風に話をしているうちに、周りの存在の人の、
だんだん消えていきます。
皆、別の場所へ向かったのでしょうか。
彼女も、そろそろ、次の世界へと向かうことにしました。
彼女は次の世界に行く前に、管理人さんに聞いてみました。
「私は、次の世界でも、作品を残せるでしょうか??」
管理人さんは答えました。
「創造は、散文的なものである。きっと、同じようなことをするだろう。」
どういう意味なんだろう??
彼女は、意味を尋ねましたが、彼は何も言ってくれません。
じっと見ていると、管理人さんの目から、光を放つ鳥が出てきました。
なんだか、奇妙な光景なのですが、違和感がありません。
この鳥とは、なんだか、すぐに会えそうな気がするな。
彼女は最後に、次の世界での課題を管理人さんと彫刻の人に聞いてみました。
彫刻の人は言います。
「歌うこと」
管理人さんは言います。
「手紙」
そろそろ、次の人生が始まる時間のようです。
そのことばを受け取った彼女は、
今度の人生では、望みどおり、男性となりました。
いろいろな役を演じられることを期待しています。


